『はじまり』

 

 むかしむかし、まだこの世界に神様がいた頃のおはなしです。

 

 神様は遥か遠いところから、魔法の海にやって来ました。神様が海をぐるぐると混ぜると、空気や土、水が生まれ、やがては生命が芽吹き、私たちの住む世界になりました。

 神様は世界の移り変わりをしばらく眺めていましたが、残念ながら彼あるいは彼女は、とても飽き性でした。生物の築く文明がある程度成熟したり、地表の大半が滅んでしまったりすると、世界の全部を魔法の海に溶かしてしまうのです。そしてまた一から世界を創りなおして、新しい歴史を眺めるのでした。

 あるとき、またひとつの世界を溶かしてしまった後のこと。神様に話しかける声がありました。神様が来る前から魔法の海を漂っていた、魂たちです。彼らは世界が在るときは順番に生物の肉体に入っていき、無いときは海を自由に泳いでいました。

 

「話しかけてくるとは珍しい。いったいどうしたと言うんだい」

「かみさまかみさま。あなたはいっつも、五十億年経った頃に世界を潰してしまいます。すると五十億年以降に肉体を得る予定の僕たちは、毎回生まれることができません」

「律儀に順番待ちなどするからじゃないか。横入りでもすればいいだろう、力とはすなわち正義だぞ」

「見くびらないでいただきたい、僕たちはそんなに未熟で野蛮な魂ではないのです。ともかくかみさま、次はせめて百億年くらいは我慢してくださいな」

「むむ、おまえたちの不満はごもっとも。しかしそれでは私がつまらないのも事実」

 

 ではこうしよう、と神様は魂たちのために特別な器を創りました。沢山の魂を収容できる、とても丈夫な人形です。

 

「おまえたち全員を一度に生まれさせたのでは世界が飽和してしまうが、一人分に収めれば問題ないだろう。順番など気にせず、この器で全員分の生を送ればいい」

「ひゅう、かみさま天才!」

 

 そうして次の世界には、数多の命を持った生物が誕生しました。その生物は不死者と呼ばれ、人間たちの騒動に巻き込まれていくのですが……それはまた別のおはなしです。